当研究室では、学術研究に広くご利用いただけるような軟骨魚類の受精卵の供給体制の確立を目指して動き出しています。主眼を置いている種が、ハナカケトラザメ(Scyliorhinus canicula, small-spotted catshark)です。2021年に惜しまれながら閉園となった三重県・賢島の志摩マリンランドが長年飼育した個体の一部を、当研究室が遺伝研内の海水水槽施設に受け入れ、飼育・繁殖を試みる予定です。欧州近海産ですが、1980年代初頭に日本に渡ったとの記録があるなど、由来が古いうえ公式に辿ることができることから、いわゆるABSに関わる問題は実質ほとんどないと考えています。
日本では、従来より、日本近海産のトラザメ(Scyliorhinus torazame, cloudy catshark)が、発生学や生理・内分泌の研究に利用されてきました。現在、国内にこのトラザメを飼育している研究室は複数ありますが、ハナカケトラザメについては同様の活動はないようです。欧州での研究の再現が必要なケースや、とくにゲノムサイズが小さい種が望まれるような研究には、ハナカケトラザメをご利用いただくことが有効であると考えています。トラザメのゲノムサイズが6.67Gbであるのに対して、ハナカケトラザメのゲノムサイズは5.5Gbくらいであろうと、私たちSqualomixコンソーシアム独自のデータから推測しています(門田ら、未発表データ)。ハナカケトラザメのゲノム配列情報は、PacBio社のCLRリード(HiFiリードではない)を利用して、英国の研究者がすでに読取り、データベースにおいて公開しています。
成魚に先駆けて、当該の水槽では、すでに受精卵を受け入れ、発生過程を観察することが可能となっています。研究所にお越しの際にお声がけいただけましたら、発生中の胚を直接ご覧いただくことが可能です。
なお、この活動は、東海大学海洋科学博物館、新江ノ島水族館、大阪海遊館からのご協力を得て進めています。
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