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コアラボ運営を考える

  • 執筆者の写真: Shigehiro Kuraku
    Shigehiro Kuraku
  • 4 日前
  • 読了時間: 4分

更新日:2 日前

あまり文字に記されないことに触れるというのがこういった媒体の存在意義かもしれません。今日はコアラボ、あるいはコアファシリティ、とも呼ばれたりする、共通基盤技術施設の運営についてです。とくにDNA情報取得や解析を扱う場合の話です。


以下、大事と思われること


・実験系人材と情報系人材の混ぜ合わせ。両方扱う人材の育成。解析相談を受ける際、スタートマテリアル(DNA、RNA、クロマチン)の受入れからすり合わせする場合でも、情報系スタッフが同席するのがよいかもしれない。


・技術を牽引してきた欧米のコアラボの運営体制やシークエンサベンダーなどとの関わり方をよく知り、とくに現場を訪問し、切り盛りしている人物との継続的なパイプを作る。


・新製品などの情報がお披露目される場面(国内ではなく本国)は毎年ほぼ決まっている。できるだけ早めに察知し、国内販売元との確認を経て、先の判断に活用する(既存試薬の在庫量調製や新製品試用のプランニング)。それをタイムリーに求めるユーザーの発掘。


・従事スタッフのインセンティブ管理。雇用形態の改善に反映するのか?論文などの成果物の生産か?両方できればよいが、人員によってバランスは違ってよいはず、そして計画的にできるとよい。


・所属組織におけるコアラボの位置づけやミッションを踏まえた運営理念の醸成。他の技術・リソースを扱うコアラボの運営があれば、性質の違いは整理したうえで、共通性のある運営理念・方針(わかりやすいのは受益者負担の扱いなど)を設定するのが(ユーザーにも浸透しやすく)よい。


・年間の流れを踏まえた運営。製品値上げ、新製品情報の発出、予算執行期限をはじめ、コアラボとて通常の研究系ラボとあまり変わらない制約に縛られている。その年間リズムに対するユーザーの理解を高める啓発。


・論文をどう通すか?という普遍的な命題を、コアラボがユーザーと共有できるか。コアラボ側も「出版には何が必要か」についての深い造詣があると望ましい。


・ユーザーへの予定の共有や進捗の連絡において、実現できないことは約束しない。「その後進みXXが済みました。進んだらまた連絡します」と伝えることはあっても「XXまでにXXします」とは言わない方が無難。機器の不調で進められなくことだってある。


・コアラボ絡みだと特に注意、ということではないが研究不正に知らずに関わってしまうということだってありうる。検証等のために機能停滞に陥らずに済むよう、事前に察知したら適切な判断を。


・自分たちが疲弊して続かなくなってしまっては多大な迷惑がかかる。日頃から周囲に種を蒔き、さまざまなところで芽が出る流れを作りたい。ライブラリプレップやBioanalyzerの利用についてのハンズオン講習会を開くと、「丸投げ」しないマインドが広がっていく。よりサステイナブルな状況へ近づくために、自分たちが手を動かさないことも重要。何より個々のユーザーのスキルアップにもなる。


コアラボ現場の絶対数は多くないでしょうし、活用しようがないかもしれません。しかし、文字に記されることはなさそうですので、あえて。そもそも、コアラボ運営の真っただ中にいらっしゃる方がこのように文字にして発信することはまずないと察します。もっと実績のある方からの指南が本当は響くでしょうけれど、10余年は経験したうえで身を引き、時間が経った今、あえて。


実体験を少し書きますと、自分が住んでいたドイツの街からアクセスのよかった隣国スイスのZurich大学のファシリティを訪ねたときのこと。「先日、アメリカでABRFというコアファシリティ界隈の学会に参加してきたけどExpectation managementは大事だな」とあるスタッフが言っていたのはのちのよいインスピレーションになっている。ユーザーの期待をどう管理するか、という視点。これは2006年くらいのこと。


やり方によっては、ファシリティ(コアラボ)は文字通り組織の「コア」にもなりえます。コアラボ運営の職に就く人は固定しがちですが、生命科学を広く推し進められるやりがいに溢れたその役割を経験した人が少しでも増えたほうが良いのではないか。ほか諸々ありますが、そんな考えもよぎって、離れることになり、そして、いま静岡でこれを書いています。各地のコアラボに貢献相応の賛辞がより多く届きますように。



沼津港から臨む五月の富士



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