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執筆者の写真Shigehiro Kuraku

2024 イタリア紀行(1)

ひさしぶりの欧州への出張の行き先は、またもイタリアとなりました。2年前にナポリでEuro EvoDevo会議に参加して以来です。まず、ベネト州に降り立ち、イタリアで2番目に古いパドヴァ大学(1222年設立!)の研究者Giuseppe Fusco博士を訪問しました。そして、南下してトスカーナ州に入り、プラトという小さな街で開かれた、International Conference of Chondrichthyan Developmental Biology and Genomics に参加しました。この会議において、Squalomixの最近の活動と、発生制御を司る遺伝子群のサメ・エイにおける特徴、とくに奇異な進化を遂げたHoxC遺伝子群について講演しました。


プラトでのこの会議は、豪州のCurrie博士と英国のHouart博士によって初めて企画されたものでした。2人ともゼブラフィッシュを長年扱ってきた研究者です。脊椎動物の系統間比較を行う中で視野に入ってきた軟骨魚類に光をあて、同じ興味を持つ研究者と話題を共有しようとの考えが開催の背景にあったようです。


発生を調べるための胚試料の確保を目的とした、卵生種の飼育下繁殖も重要な話題となっていました。神戸理研時代に、大阪海遊館からの全面的な協力のもとポスドクの鬼丸さんが自律的な努力でイヌザメで発生段階テーブルをまとめるなど(Onimaru et al. Dev Dyn 2016)、当方もオリジナルな発信を行ってきたエリアです。さらに遡ると、神戸の同じ理研キャンパス内で、倉谷滋さんの研究室でトラザメがかなりの規模で(私の在籍後に始まり、2023年春まで)飼われていました。現在では、シドニーのCurrie博士の研究室でエポーレットシャーク(または、マモンツキテンジクザメ; Hemiscyllium ocellatum)において、同様の試みがなされています。当研究室で飼育しているトラザメや、その同属別種であるハナカケトラザメ Scyliorhinus canicula、ゾウギンザメCallorhinchus milii、そして、エイ類からガンギエイの一種Leucoraja erinacea についても、胚試料の確保や供給についての話題やそれを用いた研究の紹介がありました。ハナカケトラザメについては、長らくフランスがそのメッカです。私はロスコフRoscoffのマリンステーションで大規模に飼育・採卵されていた時代に訪問したことがありました。それを切り盛りしていたSylvie Mazan博士は今回の会議には参加していませんでしたが、この種のゲノムシークエンスの経緯や彼女がそこへ果たした多大な貢献も話題となり、2010年より前にMazan博士の呼びかけで関わっていた身としては感慨深いものがありました。


軟骨魚類についての国内外の既存のコミュニティは、野外での生態や保全、そのためのバイトテレメトリーや集団遺伝構造、そして行動調査や乱獲に関わる調査についての研究を多く扱ってきた経緯があります。それに対して、軟骨魚類がとくにユニークな話題を提供しうる形態形成や感覚発生、そして繁殖メカニズムに焦点をあてた議論の場はこれまで限られていたといえるでしょう。今回の会議は、古生物学やゲノム学をも取り込んで、その限られた場を提供してくれたと感じました。2010年前後くらいにEuro Evo Devo会議で味わったあの景観が、シングルセル解析技術やゲノム情報、そしてリソース共有のマインドが付け加わってまた戻ってきたような感覚です。いま日本で輝いているものはまた世界に届けなければいけないと思いました。次回開催へ向けての検討に私も加わることになっていますので、これを読んで思うところがあればぜひ声掛けをお願いします。


続きはまた後日。


昨年リニューアルオープンしたばかりのパドヴァ大学の博物館にて

二重らせんを形どったオブジェ


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