「全」ゲノム解析?
- Shigehiro Kuraku
- 4 時間前
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生命について、海に漕ぎ出ださなくても、そのしくみを理解するヒントを、ゲノム情報や自前での飼育から得られる生体試料が照らしてくれます。我々の興味はいよいよあの「マンタ」にまで及び、今日もお膝元の水槽で生じたサメ胚発生のレアケースに唸っていました。
そんなこんなで取り上げるのが遅れましたが、ギンザメ(Teramura et al., DNA Res 2026)やニシオンデンザメ(Yang et al., PNAS 2026)のゲノム解析に続き、当研究室発のエイ2種のゲノム解析の成果を論文として発表しました。
Tracing genome size dynamics in sharks and rays with inclusive sequence analysis by the Squalomix Consortium. Genome Res. Published online: June 16, 2026

まずは論文化の背景から。先行の性染色体解析(Niwa et al., PNAS 2025)では、アカエイ Hemitrygon akajeiがX染色体を2本(X1およびX2)有することなどに触れながら、その論文の中でゲノムアセンブリ自体は報告していませんでした。その論文をアシストする目的のもと別途出版の機会を伺う中で、Squalomixコンソーシアムとしてエイ類2種を軸にした論文構成にしようと考え、種間比較によって映えるゲノムサイズの変動をテーマに据えました。生体試料の調達とシークエンスデータ取得に貢献いただいた方々にクレジットしつつ、研究室メンバー各々の持ち味で彩りを加えました。
アカエイのゲノムアセンブリはBioNanoのSaphyrシステムによるオプティカルマッピングデータを加えることにより、軟骨魚類で恐らく初めてセントロメアの姿が浮き彫りになっています(たぶん今までアセンブリそのものから欠落していたケースが多かった)。いっぽう、注目したもうひとつの種オナガカスベRhinoraja longicaudaは、(少なくともこれまでゲノムシークエンスが行われた)サメ・エイ類の中で最小クラスのゲノムサイズ(約2.2Gb)を示しました。たまたま見出したこの特徴が、ゲノムサイズ変動というフォーカスをより際立たせることになりました。論文改訂時には、ゲノムサイズ約6.6Gbのトラザメも加えて、3倍のサイズ差を押さえた種間比較が実現しました。
批判する意図はありませんが、多くのゲノムにおいて、ゲノム全体の塩基配列を読み取っておきながら、ほんの一部の情報しか活用されていません。機能遺伝子の位置を種間で比較するようなconserved synteny解析や、それらの遺伝子の同義・非同義置換速度の比較から自然選択の痕跡を探索するようなアプローチでは、ゲノム全体の長さの90%以上を占めるとされるイントロンや遺伝子間の領域は使われないためです。今回の我々のスタンスは、染色体という構造に目を遣るのは当然のこと、コーディング領域外のゲノムの広野にも注目することでゲノムの「つくられ方」を学び、サメ・エイらしさに迫ろうというものでした。論文タイトルのinclusive sequence analysisというフレーズに込めています。
軟骨魚類の核型で問題になりがちな、短い染色体を本当に染色体と呼んでよいのか(あるいは、長い染色体にアセンブリし切れなかった断片なのか)をどう判定すればよいのか、また、セントロメアをどう見つければよいか、という疑問に対して、あまり明文化されていなかった着眼点を提供しました。また、rDNAやtRNA遺伝子のプロファイリングを行い、後者については、ゲノム上のコピー数がとくにサメ類で多いことなどを報告しています。トランスポゾン様配列の分布がイントロン・遺伝子間領域を問わずゲノム内で一様であることの示唆とともに、(以前の研究からほぼ明白ですが)その増減がゲノムサイズの変動に寄与していることを改めて示しました。ちなみに、(改訂時に行った解析では)ひとつの試みとして、トランスポゾンを推定する前に、より定義しやすいと考えられるタンデムリピートを先に検出し、検出された部分をマスクしてからトランスポゾン検出へ進む、という手順を採用してみました。
加えて、新しいと考えているのは、ゲノムサイズが大きい種ではタンデム遺伝子コピー数が多いという可能性を示したことです。具体例として、V2R遺伝子クラスターを取り上げています。ゲノムサイズが大きくなると(いわゆる全ゲノム重複は介さずとも)遺伝子レパートリが増加する、という至極単純な傾向ですが、これは今後さらに多くの種で検証する必要があるでしょう。
タンデム遺伝子クラスターとして、ほかにHox遺伝子クラスターについての解析も施しています。この中で、エイ類としては以前は進化の過程で失われたとされていたHoxCクラスターを(一部難読領域のせいで配列読み取りは不完全ではありますが)アカエイで報告しています。遺伝子発現の証拠とともにHoxCクラスターが報告されるのはエイ類では初めてのことだと思います。いっぽう、オナガカスベを含むガンギエイ目ではHoxCクラスターは見つかりません。どうやらクラスターごと失っているようです。アカエイでは、HoxCクラスターだけではなくHoxBクラスターまでもが難読領域に埋もれ気味で、これら2つのHoxクラスターがともにX染色体に座乗していることを報告しました。脊椎動物では、Hoxクラスターが性染色体に乗っているのはサメ・エイ類のみかもしれません。サメ・エイのHox遺伝子についての以前の論文は、出版論文のページのKeyword「Hox」で見つけていただけます。
別論文をアシストする目的を拡張して様々な対象を扱いはしましたが、より多くの種を含めた次のステップへ向けての「さわり」にとどまった論文となりました。今後も、分子進化学の視座を生かしてサメ・エイらしさを分子レベルで明らかにする研究を推し進めます。分子進化学、動物学、水産学などの興味とご経験を生かして研究にともに従事してくださる意志をお持ちの方のご相談もお受けします。
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